タバコシバンムシは、赤褐色の小さな害虫で、その名の通りタバコを食害する害虫です。乾燥した動植物を食害するため、食品工場や一般家庭などでよく見かける存在です。

世界には2,000種類以上のシバンムシがいるとされ、現在のところ日本では137種が確認されています。
ほとんどのシバンムシが樹木類に生息しており、人の生活に影響のあるシバンムシとして家屋害虫や文化財などの害虫として知られていますが、
人の食料に発生する「食品害虫(貯穀害虫)」として、タバコシバンムシとジンサンシバンムシの2種類がいます。

本記事では、タバコシバンムシの生態や特徴、被害と対策について詳しく解説していきます。

また、シバンムシアリガタバチという寄生蜂との関係も解説し、寄生蜂による二次被害にも注意を喚起しています。

これらの情報が、タバコシバンムシの被害対策や予防に役立つのではないでしょうか。

タバコシバンムシの生態と特徴

タバコシバンムシ(Lasioderma serricorne)は、日本を含む世界中に分布し、乾燥した食品などを食害する害虫として知られています。実は、食害するのは幼虫のみでタバコシバンムシは成虫は食害しません。蛹から脱出した成虫は生殖活動に専念し、10〜25日の寿命となり餌をとらないためです。
タバコシバンムシの幼虫は乾燥したものを中心に様々なものを食害します。

タバコシバンムシの特徴
分類:昆虫網コウチュウ目(鞘翅目)シバンムシ科
学名:Lasioderma serricorne (Fabricius)
英名:Cigarette beetle
体長:成虫で2.5-3mm(成熟した幼虫で3mm程度)
体色:赤褐色(幼虫は淡黄白色)
体毛:全体的に有り
光沢:有
飛翔:よく飛翔する
活動期:
寿命:約50日~ ※幼虫で越冬するため、長い個体では半年以上
  (卵の期間は気温30℃で6.5日 気温20℃で18.1日、幼虫の期間 気温23~25℃で30~45日、発育零点15℃、蛹期間は5〜7日)
人間への影響:

見た目と体長: 赤褐色の小さな害虫

タバコシバンムシ

1辺が5mmの四方マス

タバコシバンムシは、体長約2-3 mmの小型の害虫で、赤褐色の体を持ち、全身に微細な毛が生えています。触角は鋸歯状で、昆虫のなかでも特徴的な形状をしています。成虫は翅を持ちよく飛翔しますが、通常は歩くことが多いです。また、強い嗅覚を持っており、餌となる食品やタバコのにおいを察知して集まってきます。

食害の特徴

タバコシバンムシの幼虫は、乾燥した植物質の食品や製品、動物質の食品や死骸などを餌とします。
食性は広く、被害食物の種類は100種を超えています。
穀粉、お菓子、カップ麺、タバコ、たたみ、煮干しやペットフード、昆虫の死骸など食害するため、食品保管場所や畳、床の隙間などの室内で発見されることが多いです。畳などでは、成虫となって現れる際に、表面に直径1-2ミリ程度の脱出孔が現れます。
本種の対策としては、清掃と食品の密閉による予防、トラップ調査によるモニタリング、発生した場合は駆除薬剤の使用や加熱処理などが一般的です。適切な対策を行い、被害を最小限に抑えることが重要です。

タバコシバンムシの食害物の例
パン、ビスケット、コーヒー、ココア、豆類、トマト、ネギ、レタスなどの種子、唐辛子、胡椒などの香辛料、イースト、乾果、粉末スープ、濃縮飲料、シロップ、乾燥シイタケ、乾麺、パスタ、マカロニ、粉ミルク、昆布、生薬、タバコ、包装材、壁紙、畳、人形、ドライフラワー、革製品など。

引用元:日東医誌,Vol.72No3 307-312,2021.

一般的な生息場所と侵入方法

タバコシバンムシは、世界的に分布している害虫です。乾燥した動植物質を餌にすることから、家庭や食品工場、貯蔵施設、漢方薬局など様々な場所での発生が見られます。
侵入経路は、外から侵入してきた場合と食品などの物自体に含まれていた場合が考えられます。

外からの侵入

タバコシバンムシは飛来して室内に侵入してきます。
床などへ餌となる食材等が散っている場合は、タバコシバンムシが産卵をし、繁殖を許してしまいます。
また、開封したままの食材や蓋が開いている容器など食材が密閉されていない状態で保存されている場合にタバコシバンムシが侵入をしてきた時に繁殖を許してしまいます。

混入

食品や製品に混入されていた場合では、植物の収穫時や梱包時に食品等に混入したり輸送の課程でタバコシバンムシの成虫が侵入することなどが考えられます。

タバコシバンムシの対策としては、「清掃」と適切な「保管方法」が極めて重要です。食品工場などでは、外から室内に虫が入ってこないように建物に隙間を作らないことも有効です。

ジンサンシバンムシとの違い

名前と外見が似たジンサンシバンムシは、同じく、香辛料、生薬、タバコの害虫として知られていますが、一般にジンサンシバンムシは畳への食害はみられません。

タバコシバンムシと似るジンサンシバンムシとの見分け方は、鞘翅(しょうし、さやばね)と触角の特徴で区別できます。

タバコシバンムシとジンサンシバンムシの見分け方
鞘翅
タバコシバンムシ→点刻・条線なし
ジンサンシバンムシ→上翅には点刻11本の条線(縦条)が見える
触角
タバコシバンムシ→のこぎり状(小さな△が連なり)で、各節の大きさはほとんど同じ
ジンサンシバンムシ→先端3節の触覚が大きい

タバコシバンムシによる被害と対策

タバコシバンムシは日常のどこにでも発生しうる昆虫です。もしもタバコシバンムシが発生した場合は、どうしたら良いのでしょうか。

食品や畳などでの食害

タバコシバンムシの食害は、食品では、乾燥させた植物製品や香辛料、小麦粉などを中心に被害が見られるます。また、畳や室内の床や壁の穴なども被害が及ぶことがあります。食品の容器内で発生をしている場合は、廃棄が必要ですが、少量であれば、電子レンジにかけることで駆除することができます。
タバコシバンムシは、食べかすや昆虫の死骸も餌にするため、床や壁の隙間など被害が広範囲に及ぶこともあります。被害が進行した場合は大量発生して広範囲に拡がることがあります。この場合は殺虫剤での駆除が必要ですが、タバコシバンムシはピレスロイド系統の薬剤は効果が低いため、有機リン系統の薬剤を使用することが一般的です。殺虫剤は卵に対しての効果はないため、最低でも2回の施工が必要です。
畳への発生は、加熱処理を行うことが望ましいでしょう。

タバコシバンムシの生育は、湿度や温度が関係しており、環境によっては短期間で被害が拡大する恐れがあります。したがって、被害を受けた場合には早急な対策が求められ、発生源の調査や適切な駆除方法の選択が重要となります。

発生時期と被害状況の確認方法

タバコシバンムシの活動は、主に気温が20℃を超える春から秋にかけてみられます。24時間365日空調により高い室温の環境であれば、1年中活動することができるでしょう。

被害状況(範囲)の確認方法は、目視による他、フェロモントラップによる調査を行うことが一般的です。

家庭での予防対策

家庭での予防対策としては、まず、食品の保管環境を整えることが重要です。乾燥食品は密閉容器に入れ、可能なら冷蔵庫への保存が望ましいです。また、畳や床の掃除をこまめに行い、湿気や食べかすの放置、汚れを防ぎましょう。さらに、個体の侵入を防ぐために、窓やドアの隙間に注意しましょう。

業務用施設での影響

業務施設でタバコシバンムシが発生し、製品に混入した場合は、

業種によっては「風評被害」や「信用損失」の影響の可能性が考えられます。

業務用施設の環境によっては、シバンムシやジンサンシバンムシなどの害虫が発生しやすいため、適切な対策を行いましょう。

二次被害
シバンムシアリガタバチとの関係

タバコシバンムシとジンサンシバンムシが発生している場所ではシバンムシアリガタバチ発生する可能性があります。本種のメスは針を持ち、人を刺すため、チクリとした痛みを感じたり、繰り返し刺されるうちに、遅延性のアレルギー反応となり、刺された翌日以降に痒みを伴う紅斑が現れるようになります。まれに、即時型アレルギー反応が起きたり、アナフィラキシーショックを起こすこともあります。蜂のアレルギー体質がある人は注意が必要です。

整理とまとめ

タバコシバンムシなどの害虫対策としては、清掃と密閉した保存が重要で、タバコシバンムシが発生しやすい業務施設では、モニタリングを行うことで、早期発見早期駆除が必要です。また、タバコシバンムシの二次被害として、人を死傷するシバンムシアリガタバチの寄生にも注意が必要です。タバコシバンムシを発生させない環境作りが大切ですが、もしもタバコシバンムシの発生を確認したら、早期の対策により被害拡大を防ぎましょう。

文献
日東医誌,Vol.72No3 307-312,2021.