日本のトコジラミは江戸時代に海外から購入した中古の船に寄生していたのが原因で、神戸などの港を中心に拡がったと言われています。
その後、戦後の昭和の時代に強力な薬剤散布による駆除によって
日本でトコジラミを見ることはなくなりました。
しかし、近年は、海外からの旅行者などの荷物に紛れて、日本に侵入し、
特に宿泊施設などで被害が増加しています。
日本で再びトコジラミの被害が増加した当初は、
海外からの持ち込みが原因でしたので、港や宿泊施設など局所的に被害がみられていましたが、
現在では海外からの持ち込みだけでなく、不特定多数の人が利用する場所であれば、いつどこでトコジラミを持ち帰ってしまうのかが分からない状況と言われています。
参考:トコジラミ被害の歴史
また、昆虫は同じ殺虫剤を使い続けると、その子孫に対しての同系統の殺虫剤抵抗性がつき、次第に薬剤が効きにくくなっていきます。
現在の日本に生息するトコジラミの約9割以上がピレスロイド系統の薬剤に対する抵抗性を持っていると言われていますので、
市販されているピレスロイド系殺虫剤では駆除できない厄介な状況となっています。
トコジラミは毎日産卵をして増えていき、衣類や荷物に紛れて分布範囲を広げていきます。トコジラミの被害を放置すると、家中に生息範囲を拡げるだけでなく、職場や学校、公共機関などにも生息が拡がっていく可能性がありますので、早期の段階での駆除が重要です。
この記事では、トコジラミの生態・種類や発生原因、駆除の方法などの基本的な知識について紹介します。
トコジラミ(ナンキンムシ)の生態について
まずは、トコジラミとはどんな生き物なのかを知っておきましょう。
トコジラミは、別名で南京虫(ナンキンムシ)や床虫(トコムシ)とも呼ばれています。
名前こそは「シラミ」とありますが、
髪の毛や陰毛、衣服などに住み着いて吸血するアタマジラミやケジラミ、コロモジラミとは違い「シラミ」ではありません。
ケジラミやアタマジラミなどとは全く昆虫の分類が異なり、
トコジラミは、カメムシの仲間です。トコジラミはカメムシと同じように触れると、カメムシのような嫌な臭いを発します。
トコジラミの種類
人間に寄生して吸血をする主なトコジラミの種類として、
トコジラミとネッタイ(タイワン)トコジラミが存在します。
今のところ、日本ではネッタイトコジラミの分布は局所的なようですが、
ネッタイトトコジラミは、より薬剤耐性が強いため、通常のトコジラミのよりもさらに駆除が困難になります。
トコジラミ
トコジラミの成虫の大きさは、5mm~8mmほどで、
色は茶褐色、背腹はひらべったい体です。
しかし、トコジラミは体重の何倍もの血液を吸うことができ、吸血とともに腹部が膨張し、体内に入った血液が影響して濃い茶色となり、体長も長くなります。
トコジラミの卵は、長径1.2mm程度の大きさで、長円形の乳白色です。
また、成虫がそのまま小さくなったような幼虫ですが、
卵から孵化したばかりの幼虫は淡黄色で成虫とは色が異なります。孵化直後の幼虫の大きさは体長1.3mm前後です。
成虫には前翅がありますが、退化しているため、飛ぶことはできません。
ネッタイトコジラミ
熱帯地方に分布し、日本でも港湾地域などに見られるネッタイトコジラミは、
ネッタイトコジラミ(標準和名)やネッタイナンキンムシ(俗称)と呼ばれることがあります。
トコジラミとの見分け方は、
トコジラミよりもネッタイトコジラミの方が胸部が若干細いというくらいですので、
普通の方が目視で見分けるのは難しいでしょう。
トコジラミの生活環(ライフスタイル)
トコジラミはどのようにして生まれて成長し、繁殖をするのでしょうか。
卵から成虫までの期間
トコジラミが卵から成虫になるまでの期間は、気温によって変わります。
25℃の環境では卵の期間は約5日、卵から成虫になるまでの期間は約40日程度です。
しかし、気温が、15℃の環境では、卵から成虫になるまで約240日程度かかります。
つまり、気温が温かい季節の方が、繁殖が著しく早くなるということです。
トコジラミはゴキブリやシロアリなどと同じで成虫になるまで蛹を介さない不完全変態の昆虫です。
幼虫の段階で5回脱皮を経て成虫となります。
トコジラミの寿命
トコジラミの成虫の寿命は、気温の環境によって変わりますが、
20℃程度の環境下では、9カ月~1年半ほど生き続けますが、
27℃の環境下では、3~4カ月と寿命は短くなります。
トコジラミの雌は毎日産卵する
トコジラミの雌は毎日産卵します。
1日に5~6個の卵を生み、一生の間に生む卵の数は、500個程度と言われています。
トコジラミの餌
トコジラミの餌は血液だけです。人や犬、猫、ねずみや鳥などから吸血して生きています。
トコジラミは飢餓に強い
トコジラミは、自らの栄養を血液からしか摂ることができませんので、
吸血ができなければ生きていけません。
ところが、トコジラミは、飢餓に強く、
吸血ができない状況下であっても長く生きることができます。
20℃程度の環境下では3カ月ほど、
10℃以下の環境下では、なんと2年近くも生存した記録があります。
ただし、幼虫に関しては、脱皮の度に最低でも1度吸血が必要と言われています。
トコジラミ被害について
トコジラミ被害の症状
トコジラミに吸血される際に体内にトコジラミの唾液が注入され、そのアレルギー反応によって激しい痒みが生じます。
トコジラミの刺し口と吸血時間
トコジラミに刺し口は、一度に2カ所と言われていますが、平均的に2カ所を刺すことが多いだけで、必ずしも2カ所とは限りません。
また、トコジラミは、吸血時間が長く、一度に大量の血液を吸うことが特徴です。
一度の吸血時間が10分以上に及ぶことも珍しくありません。
トコジラミは衣類の内部まで潜ることは少なく、
肌が露出している部分から吸血する傾向にあります。
そのため、就寝中に刺される場合には袖口や襟元の肌の露出部分に沿って複数カ所刺されることが多く、
地肌だけに限らず袖口や襟元などの衣類の上から吸血することも多くあります。
尚、大量の血液を吸うトコジラミですが、刺されてもほとんど痛みを感じません。
トコジラミ被害の見分け方
このようにトコジラミは、ノミ・ダニとは異なった特徴がありますが、
専門医であっても、刺された跡を見ただけでトコジラミによるものと特定することは困難です。
トコジラミ被害であるかの診断には、
室内に脱皮の殻がないか、血液の糞がないか、現物の虫がいないかなどを調査する必要があります。
そこで、トコジラミを捕獲する調査用のトラップを使用するなどの方法があります。
ありさ利奈 – <a href=”https://ja.wikipedia.org/wiki/User:%E3%81%82%E3%82%8A%E3%81%95%E5%88%A9%E5%A5%88″ class=”extiw” title=”ja:User:ありさ利奈”>ありさ利奈(旧亜利紗)</a>自ら撮影, CC 表示 3.0, リンクによるトコジラミの抜け殻写真
トコジラミは病気を媒介する?
トコジラミについては、幸い、感染症を媒介することはありません。
しかし、トコジラミを潰した時に、体に含まれていた吸血した血液から、肝炎やエイズなどが感染する可能性もあるのではないかと言われています。
トコジラミの活動時期
トコジラミは、気温が高い夏場は特に活動が活発になり、気温が低くなると活動が鈍くなり吸血被害は少なくなりますが、気温の下がる冬場でも室内が暖房によって気温が保たれている環境下にあると1年中被害が発生します。
尚、トコジラミは明るい場所を嫌うため、
通常、活動する時間帯は、室内の灯りが消えた就寝中などの夜間になります。
室内の灯りが暗くなると、人間の吐く息に含まれる二酸化炭素(炭酸ガス)などを察知して吸血場所を探します。
しかしながら、飢えているトコジラミは、夜間に限らず昼間でも吸血に現れるようです。
トコジラミがいる場所
トコジラミは、明るい場所を嫌うため、日中は人目につきにくい暗くて狭い場所に潜んでいます。
例えば、ベッドやマットレスの下や隙間、コンセントの差し込み口の内部、壁に掛けられた鏡や絵画の額、カレンダーの裏側、畳の隙間や裏側、家具の裏側や床との隙間などが挙げられます。
トコジラミは就寝中に活動をして吸血をするため、ベッドや布団の近くに潜んでいることが多いです。
トコジラミが潜みやすい場所
・家具の裏側や隙間
・額の裏側や隙間
・カレンダーの裏側
・カーテン
・コンセントの内部
・ソファーの隙間
・壁の隅
・天井
・引き出し
・ベッドの裏側
・マットレスの裏や縁
・本のカバーと表紙の隙間
・破れたクロスの隙間
トコジラミ(南京虫)の見つけ方
前述のように、
トコジラミ(南京虫)は、家電や絨毯の隙間など日中は人目につきにくい場所に隠れていますますので、初期段階では発見が難しいです。
しかし、繁殖が進んでトコジラミの数が増えてくると、トコジラミの糞による黒っぽいシミが目立つようになります。
トコジラミは、人間が寝静まった夜間に隠れ家から出てきて活動をしますが、
電灯をつけると、すぐさま素早い動きで隠れてしまいます。
トコジラミの生息を調べる方法は
・目視調査
・トラップ調査
・探知犬調査
などがあります。
目視調査では、
トコジラミが潜みやすい場所から重点的に、
糞や脱皮の殻・卵などのトコジラミの痕跡がないかを調べる他に、
夜間に、室内の温度をトコジラミが活発に活動をする30度くらいにして、一旦電気を消して30分ほど退出し、
戻って灯りを付けて、床やベッド廻りなどにトコジラミが徘徊してないかを調べる方法があります。
最も効果的なのは、自らが囮になることです。夜間に就寝して午前3時前後に目覚まし時計をセットし、目覚めてすぐ、トコジラミがいないかを調査する方法です。
トコジラミの発生原因と駆除方法
人の荷物に紛れて移動する
前述のように、
トコジラミの翅は退化しているため、飛ぶことはできません。
では、なぜ、トコジラミによる被害が拡がっているのかというと、
バッグなどの荷物に紛れ込んで、トコジラミが分布場所を拡げているのです。
隣の部屋など近くであれば、トコジラミが歩行によって被害場所が拡大することはありますが、
多くの場合は、人の運搬が原因です。
そのため、外国人観光客が多い地域のホテルや旅館などの宿泊施設では、海外から移動してきたトコジラミ被害に悩まされています。
また、海外旅行者の荷物にトコジラミが紛れ込み日本の自宅に持ち込んで繁殖してしまうケースもあります。
海外から買い付けた物資や中古家具などにも潜んでいることがあるため、購入の際には注意が必要です。
特にトコジラミが潜伏しやすい家具はソファーや椅子、中古のベッド・マットレスなどです。
購入されるまでの間、倉庫などで長期間保管されていても、トコジラミは飢餓に強いため、生き残る可能性が高いためです。
参考:トコジラミの発生原因
トコジラミを見つけたときの対処法
チャック式のビニール袋などに入れて保管する
トコジラミと疑われるものを見つけた時は、チャック式のビニール袋などに入れて保管しておくと良いでしょう。
後に、防除事業者に相談する際や、痒みで病院を受診する際に、原因を特定するための重要な情報となります。
バッグ・寝具・家具・本などをビニール袋で隔離する
トコジラミが見つかったら、バッグなどの手荷物や、寝具などをビニール袋などでまずは隔離しましょう。
手荷物は、目視で個体の生息を確認し、布団や衣類は乾燥機にかけで殺虫しましょう。
トコジラミを持ち込まないための予防方法
宿泊施設や海外の旅行先では、荷物は床面に置かないようにしましょう。
トコジラミは、すべすべした面を上ることができませんので、滑らかな脚のある机や台の上などに置くとよいでしょう。
また、海外から帰国した時に、痒みなどトコジラミが疑われる症状があれば、
帰宅後は、まず荷物、衣類をバスタブの中に入れて、トコジラミを持ち込んでいないかを確認しましょう。
その際に、他の部屋に入ってしまうと、トコジラミが家の中で繁殖してしまう可能性が高くなります。
家に帰ったら、
できるだけ行動範囲を限定すること、まずはバスルームの中に入りましょう。
吸血昆虫用の忌避剤
ディートを有効成分とする吸血昆虫用の忌避剤を皮膚に塗布すると、
数時間はトコジラミが近寄って来ないことが期待できます。
トコジラミ駆除の方法
注入処理
個体や棲み処に対して直接薬剤に触れさせる方法です。
残留処理
トコジラミの通り道に予め残効性のある薬剤を塗布・噴霧しておいて、殺虫剤に触れさせる方法です。
燻蒸処理
バルサンなどを用いた簡単にできる方法ですが、
燻蒸処理では畳やカーペットの裏側、家電製品の隙間などに潜んだトコジラミに対して有効成分が到達が難しく効果的とは言えません。
トコジラミ(南京虫)はバルサンでの駆除は困難な場合が多いです。
トコジラミをスチームで駆除(熱処理)
高熱のスチームなどによって個体を致死させる方法です。
バキューム処理
掃除機などで個体を吸い込む方法です。
トコジラミ駆除は自分でできる?
初期の段階であれば、駆除が可能な場合がありますが、
近年のトコジラミはピレスロイド系の殺虫剤に対して抵抗性を示す傾向があり、
多量の殺虫剤を用いなければ致死しない可能性があります。
(日本のトコジラミの約90%がピレスロイド系の薬剤に対して抵抗性を示しているとも言われています。)
ホームセンターなどで市販されており多くの殺虫剤には、
ゴキブリやハエなどと一緒に「トコジラミ」に対して有効だと記載されていますが、
以前はトコジラミに対する効果を謳うには、ゴキブリに対しての効力が確認できれば薬事法での承認申請ができました。
しかし、現在のように薬剤に対する抵抗力の問題は、当時とは異なる状況ですので、効果が望めない場合があります。
また、トコジラミは繁殖能力に優れているため、
的確に棲み処を把握して的確な処理を行わなければ、
時間の経過と共に状況が悪化してしまうことがあります。
素人では的確な処理ができない可能性があるため、
できれば被害が拡大する前の初期の段階で専門の駆除業者に依頼する方が良いでしょう。
トコジラミ駆除業者に依頼するときのアドバイス
冒頭でも述べましたが、
日本でのトコジラミ被害は、戦後に本格的な薬剤散布によって駆除を行った結果、数十年間の間、ほとんどみられなくなりました。
ところが、グローバル化が進み、海外からのトコジラミの持ち込みによって、
2006年頃から国内でのトコジラミ被害が急激に増加しています。
このような背景からトコジラミ駆除の歴史には防除事業者にとっての空白の期間があり、
現在では、トコジラミ駆除の技術を持った防除事業者が少ない問題があります。
加えて、現在のトコジラミの90%近くがピレスロイド系薬剤に対する強い抵抗性を持っている傾向があると言われており、以前よりも高い技術力が必要となっています。
そこで、トコジラミ駆除業者に駆除を依頼するときの注意点をお教えします。
トコジラミ駆除の経験が豊富な業者に依頼しましょう。
日本でのトコジラミ駆除の歴史は、
長い間空白の期間があり、2006年あたりから宿泊施設を中心として国内での被害が顕著にみられるようになりました。
そのため、防除事業者の中でも、トコジラミに関しては、技術者が不足している状況です。
トコジラミ駆除業者を選ぶ時に後悔しないためには、
トコジラミ駆除現場での経験が豊富な業者に依頼をすることが必要です。
防除業者の専門分野も様々であることを知っておきましょう。
よくある失敗としては、
「痒み」「虫刺され」という表面上の症状でノミやダニと思い込み、
ULV空間噴霧処理だけを行うなどです。
ところが、近年のトコジラミは、
ピレスロイド系の薬剤に対しての抵抗性が強いため、効果が期待できません。
また、その生態の特徴から、有効成分が届かないなどの問題もあります。
トコジラミ駆除業者を選ぶときには、
駆除の経験が豊富な業者に依頼しましょう。
一定期間の再発保証をしてくれる業者に依頼しましょう。
トコジラミの駆除は、
駆除後に一定期間の保証をしてくれる業者に依頼をしましょう。
理由は、トコジラミは繁殖能力に優れているため、
完全駆除をしなければ、また大量発生を繰り返してしまうからです。
無駄なお金とならないように、
一定期間の再発保証をしてくれる業者を選びましょう。
※駆除業者の保証期間は、あまりにも長すぎるのも注意すべき点があります。詳しくは、トコジラミ駆除の口コミは本当?業者の保証で気を付けること をご覧ください。
殺虫剤の安全性に正しい認識を持っている業者に頼みましょう
駆除業者の中には、人が住んでいる室内で残留性のある有機リン系薬剤の大量散布に頼って駆除を行うなど、
使用する殺虫剤の安全性の認識を誤っている業者もいるようです。
どのような駆除方法を行うのかについて、事前に確認をしておきましょう。